BOA SORTE KAZU

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BOA SORTE KAZU

“サッカー人として”  2010年04月16日(金)掲載

“サッカー人として”
2010年04月16日(金)掲載

サンバはボールに通ず

 僕はサンバを習ったことなどないのだけれど、あのリズムを打ち鳴らすことができる。15歳でブラジルへ渡り、早くから現地で見て聞いていたからこそ身についたのだと思う。


 かの地であのリズムを刻み始めると、どこからか人が現れ、また違うリズムを手に加わってくる。音の輪が連なる。同じことがサッカーでも起きるんだ。


 オーケストラのように指揮者がいて、「君はこのパート」「あなたはSD」という風に割り当てられるのがヨーロッパサッカーだとすると、ブラジルは違う。選手は「こんな音もあるぞ」と勝手気ままに割り込み、共鳴する。仕切り役はいるけれど、「何を言い出す」とは止めずに「いいねえ、それ」と招き入れる。


 最高のサッカーを見せたと名高い1982年ブラジル代表。よく見ると、右サイドをオーバーラップした右SDがコーナー付近でパス交換する相手が、左SDだったりする。現代サッカーなら考えられないよね。


 その左SDは本来優れたMFだったのだが、「黄金の中盤」があったがゆえにSDへ回っていた。だから考えられないポジショニングも生まれたわけだけど、これもブラジル人が「パートの理論」ではなく、「うまい選手を10人集めれば勝てる」と心の底で考えていることに端を発している。


 日本で監督がプレーの手本として欧州トップチームの映像を見せることがよくある。3年前に横浜FCを率いたジュリオレアルも合宿で僕らにビデオを見せた。映し出されたのはサンバのはじける踊り。リオ生まれの彼は「これがサッカーなんだ。分かるか?」と。ある意味、日本人に対する一番難しい要求だよ。紅白戦で「球を持ったら必ず一度は得意技をすること」といった縛りを設けたりもした。


 ラダー(はしご状の縄)を用いてステップの練習をさせるとブラジル人はパッとしない。日本人の方が器用で俊敏、教えられた動きをうまく反復できる。それがことピッチ上となると、どうしてブラジル人はあんなにリズミカルにステップを刻めるのか。いまだによく分からない。


 マネしようにもできず、すべきなのかも定かでないけど、サッカー史で最も実績を挙げているのがブラジルなのも事実。否定はしにくいものがあるよね。