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日本フットボールリーグ(JFL)のアトレチコ鈴鹿クラブに復帰するにあたり、考えてきたことがある。57歳らしからぬプレーをしたい。「ベテランらしさ」の檻(おり)にとどまりたくない。
ボールを持てば向こう見ずなくらいにドリブル、シュート。サッカーを始めたころはみんな喜々としてやったであろうことを、ベテランと称される年代になるとやらなくなっていく。もう若くはないし、しのげる経験もなまじっか、身につけた。泥臭い作業はどうも――。そう自分を納得させて。
ポルトガルでは35歳あたりを過ぎてベテランのはずの選手が、勝負をしかけ、うまくいかなくても懲りずにゴールへ向かっていた。年がいもなくね。
ある日のSBとの1対1の練習。「ミウラ、ブラボー!」と僕が喝采を浴びた。スピード勝負ではかなわない相手に、フェイントを1つ入れ、サッと縦に抜き去った。
ドリブルで40メートル独走突破しろといわれれば難しい。でも、屈強なDFに負けじとボールをキープ、2人に囲まれたのに間を抜けてゴール、といった小さな成功体験を、あちらでの1年半で手にすることができた。
毎回成功、とはいかない。試合では練習通りにいかないかもしれない。それでもゴール前の3~6メートル四方の狭いスペースで生じる局面は、練習でも試合でも同じ。パワーとフィジカルが幅を利かせる荒っぽいポルトガル2部で感得できた濃密なものを、鈴鹿で出してみたい。
事業で財を成し、隠居してもいい老年なのに、かばんを抱えて商いに回った創業者がいるという。50歳になってサーフィンに目覚める人、新たな習い事に少女のように心ときめかせる70代。たぶん、できるかどうかにとらわれていないんだ。「できるかも」と感じられること、ただそれだけで、楽しい。
チャンピオンズリーグ(CL)でレアル・マドリードが優勝した決勝でビニシウスは得点も挙げ、素晴らしかった。ただし前半に限れば、突破を試みたうちの8割は相手に取られているよ。並の選手なら一度失敗したら次は勝負を控え、安全なパスに逃げる。続けて失敗したくないから。チームがチームならビニシウスを前半でベンチに下げているかもね。
でも彼は、取られても失敗しても、また勝負する。彼と同じくらい速く、うまい選手なら日本にもいる。違いは、やるか・やらないかではと思うんだ。
もちろんサッカーでは、どこで、どこまでリスクを背負って勝負すべきかはスコアや状況による。でも気をつけないと、つい失敗のない選択に傾く癖がついてしまう。先日の練習試合もそうで、僕は自分で勝負できる局面でパスして、後悔。ピチピチ、ギラギラしたメンタリティーを意図的に持たないとね。
年だから、で済ませるのはもったいない。20代のようにドリブルで跳ね、またぎフェイントで舞う。57歳でそれをやれたら最高じゃないですか。さあ、やりましょう!