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欧州でプレーしていると、選手の入れ替わり、転変、流動のめまぐるしさを肌で感じずにはいられない。
オリベイレンセのポルトガル2部残留の立役者になった攻撃的MFがいる。彼が重用されだしてチームは軌道に乗った。こうなると彼の「市場価値」は数カ月前とは一変、オファーがよそから舞い込む。年俸を上げれば引き留めも可能だろうけれど、クラブの懐にその余裕はない。本人も、条件次第で出ていくことにためらいもない。終盤戦で連続得点したアフリカ出身のFWも、ひとところにとどまる意思が最初からない。
チームに「これで戦っていける」という形が見えてきたその時から、流動の引き金が引かれる。定常ではいられない。そこで力を維持していくのは大変だよ。
そんなダイナミズムはビジネス、平たく言うと売り買いの力学でぐんぐん推し進められている。日本のスポーツ界はというと減価償却じみた発想が強い気がするね。僕が3年10億円の年俸で契約したとする。毎年20得点して、得点王となり優勝に貢献し、メディアなど露出のインパクトも大。これで3年稼働してくれれば十分に元は取れた、経費の償却としては「合格」みたいに。
欧州は違う。投資した10億円を取り戻し、もっと増やすこと、増えていく循環をどうつくるかに常に意識が向いている。
レアル・マドリード(スペイン)加入が決まったフランス代表エムバペは25億円を超す年俸で5年契約とも報じられている。たぶんクラブ側はもう、彼がどのタイミングで売れるかと、考え始めてもいるよ。かかるであろう計125億円よりも価値を上げ、200億円の利益をひねりだす道はあるかと。そのためには投資した資産の価値は落としちゃいけないし、ベストの売り時も逃さない。
Jリーグが開幕して31年。これまではクラブが国内に存在すること自体が価値だった。これからはクラブが地域を潤すようなポジティブなお金を生み出し、貢献できるかが問われると思う。選手の売り買いも含めたビジネスの能力でね。
1992年、イタリアではトリノからACミランへ渡ったレンティーニの移籍金が当時の最高額の約30億円だと騒がれた。ヒデこと中田英寿氏が2000年にペルージャからローマへ移った際の移籍金は推定20億円ほど。今では、大物選手を巡ってやり取りされる額はもう1桁増えている。
ヒデや、ビッグクラブに入団した他の日本選手にしても、いったん欧州のクラブを経由して市場価値は跳ね上がった。これを日本から直接買われるときにも、それ相応の値札が付くくらいにJリーグの商品価値を世界から認めてもらわなきゃいけない。現状では海外へ出やすくする配慮も込めてタダ同然や格安で譲っているわけで、簡単じゃないよ。
J1得点王とポルトガル2部の得点王。ともに25得点の実績だとして、どちらが欧州で高い値札がつくかというと、たぶん後者なんだね。J1で25得点するのも同等に大変で、正味の価値に大差はないはずだけど、あちらの市場は後者に信を置き、財を投じる。
日本選手がノーブランドのお買い得品でなく、100億円でも喜んで取引されていく。そうなるまでにあと何年、かかるかな。