BOA SORTE KAZU

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BOA SORTE KAZU

“サッカー人として”  2022年02月25日(金)掲載

“サッカー人として”
2022年02月25日(金)掲載

挑戦する人へのエール

 何をもって成功、失敗とするかの尺度は、人生それぞれでありもする。メダルの色、順位だけがその評価軸じゃない。4回転半のジャンプに挑んだフィギュアスケートの羽生結弦選手は、跳ばずに勲章を得られたとしても、跳ばなかったことを人生で悔やむことになると考えたのだと思う。


 失敗するかもと思えば、怖い。でも、やっておけば良かったと後々思う人生になるほうが、失敗よりもつらいんじゃないのかな。


 「今、これをやらねば後悔する」。プロになるため単身でブラジルに渡ることを決心した15歳の僕もそうだった。「なれるわけがない」と誰もがみていたけれど、学内で一番怖くて厳しい先生は、こう言った。


 「お前がブラジルに行こうと決心し、行ったこと、つまり行くだけで成功なんだよ。そこに失敗も成功もない。プロになった、なれない、そんなことじゃない。挑戦したことが成功なんだ。だからダメだとしても恥ずかしがらずに、すぐ帰ってこい」


 年を重ねた今、40年前の言葉をより深い響きとして、思い返すことがあるんだ。


 叔父さんは叔父さんで「帰りたい、じゃないんだぞ。お前は『帰れない』んだ。あれだけ言って決めたのだから帰ってくるな」と送り出してくれた。決して弱気にはなるなと。あえて鬼になってかけてくれた言葉も、違う方向から背中を押してくれたね。


 先週末はJ1開幕戦、横浜FCの開幕戦と連日、動画で観戦していた。白熱の展開、高いレベル。緑の芝は画面越しにも懐かしく、Jリーグの醸す雰囲気を「いいものだなあ」とうらやましくもなった。離れたからこそ、自分のいた場所の良さがより分かるのかもしれない。


 その土曜、僕は大学選抜チームとの練習試合で先発した。アシストもして手応え十分の45分間。こうしてみるとやっぱり、プレーの実感を得られる今の自分のほうが、幸せだとかみしめられるんだ。とどまることもできた場所への恋しさが、ゼロではないとしても。


 鈴鹿で成功できるかは分からない。それでも自分の道は、自分で開くよ。50歳を過ぎた僕を後押ししてくれたのはロベルト・バッジョだ。「苦しいときは、俺のことを思い出せ。俺がカズの背中をいつだって押しているよ」


 あれだけの才能に恵まれた人でも、けがや事情から、断念した挑戦があったのかもしれない。挑戦とは、それができる者の特権なんだ。だから、やりたいのなら、やれるだけやり続ければいい。あれ以来、心からそう思えるようになった。