BOA SORTE KAZU

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BOA SORTE KAZU

“サッカー人として”  2019年04月12日(金)掲載

“サッカー人として”
2019年04月12日(金)掲載

伸びる人柄とは

 プレーには人柄が出る。これはもう、選手全員がそう。フィールドのなかは人生の縮図であり、そこには社会がまるごと詰まっている。


 選手ファーストの監督もいれば、自己中心的な「上司」もいて、自分が語るときは延々と説明が長いくせに、人に待たされると「早くしろ」とせかす。いつもテンションが高い選手の隣に、内に秘めるタイプがいる。制さないとしゃべり続ける話し好きがいれば、寡黙な人間も。全員がプロの業界だから、前に出るのが好きな人の集まりと思われそうだけど、そうでもない。ずうずうしいやつを横目に、常に一歩下がって物事をとらえる選手だっている。


 自己中心的な選手はプレーもほぼそのまま。人の失敗には文句と非難を浴びせ続けるのに、自分が失敗したら「おう、悪い悪い」で終わり。そうした文句の聞き役に回るキャラクターもいて。FWには「俺が、俺が」が多いかも。おもてなし、という柄ではないね。


 ある日のシュート練習。決めればプラス1点、止められればゼロ、ただし上にふかすとマイナス1点というルールで競っていた。MFの後輩が「カズさんはやはりFWですね」という。僕は左足でふかしそうな場面でも、いちかばちかでゴール上の隅を狙っていく。後輩はコースがないと感じたら、ゼロでとどめてもマイナス1になるリスクは避ける。これ、いわばボランチ的堅実さ。


 人の言うことを素直に聞く選手が伸びるという声もある。伸び盛りの17歳は横浜FCにもいて、僕に言わせれば彼は人柄の「バランス」がいい。意見に耳を傾ける謙虚さはなければダメ。でも聞きすぎ・謙虚すぎなのもどうかな。


 僕自身はブラジルから帰ってきた25歳のころ、人生3度目くらいの飛躍期を迎えた。グッと伸びるのが自分でも分かった。日本が敗れ続けてきた韓国や北朝鮮を相手に3人を翻弄してサイドを切り裂き、ポスト直撃のシュートで迫る。「あれ? いつの間にか俺ってアジアで一番トップじゃないか?」。1つ上のステージに上がった、やれる、そうリアルに感じられた。


 オフトジャパンの船出となる1992年のアルゼンチン戦。残り時間9分ほどで交代した僕はフル出場でないと腹の虫が治まらず、パーティーでオフトを呼びつけ「なぜ代えた」と問い詰めた。そこからはこんな応酬。


 「選手を試したかったし、疲れが見えれば代える。それは監督の俺が決める」「疲れだろうが何だろうが、俺が交代させてくれという以外は代えるな。俺を代えられるのは、俺だけだ」。


 ……そんなやつが今いたら、僕が注意するよ。お前は何を言っているんだと。というわけで模範例にはならないけど、もっと向上したいという謙虚さの傍らに、何にも負けないという生意気さも必要なんだ。若いうちは危なっかしくとも、ギラギラとしたプレーをしてくれればいい。このバランスの悪い人は、年を取っても悪いままが多いけど。


 これから伸びてやろうという人たちへ。丸くなりすぎてもよくないよ。「いい子」でいすぎていても。