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物事を外から論じるのと、内側からみるのとでは、ずいぶん違うものがある。日本代表もそう。「もっと色々と試せ」「先を見据えて新しい選手に経験をさせろ」と論評するのは簡単だ。でも中に入れば分かるのだけど、経験を積ませる余裕なんて、代表には実際、ないものなんだ。
短期間だけ集まり、各自状態を整え、バッと臨む。時間もないし、試す親善試合だって限られる。そして先のことばかり見てはいられない。目の前の1戦、1勝にかけるのが代表の使命であり宿命。チームの10年後まで考えている監督など珍しいし、10年任せるという協会もないだろうし。
監督にすれば、試さないのもそうなら、試すのもリスク。下手に試せば選手をダメにしてしまう。例えば10代の僕は、サントスでのデビュー戦でそうやってつぶれてしまった。1試合目で鳴かず飛ばず、次戦にベンチから外されたときはさすがに落ち込んだ。日本人だからと見下す、マスコミやサポーターといった周りの目。チーム内の立場は微妙になり、自信をなくし、紅白戦でさえ自分の持ち味をまともに出せないくらいだった。
プロ野球の巨人。これほどの連敗となると、普段は打たれないはずの投手もなかなか悪い流れを止められない。エースでそうなら、置かれる状況次第では新戦力はどうなってしまうことか。一度試してダメなら次は招集しなくていい、なんて試し方はできない。いい形、望ましいタイミング、どうチャンスを与えるか。それは端から眺める以上に神経を使う作業だよ。
余談で言うと、1980年代後半にブラジル代表だったレナト・ガウショはワールドカップ(W杯)で快勝した後のバスの車中、マイクを握ってほえた。「みんな、今日は素晴らしかった。でも監督だけは最低だ。間違いを犯している。俺を使わないことだ」。そこまで試せ試せと、せっつく日本人はいないだろうけど。
言い換えれば代表とは、パッと試されて簡単に成功できる場ではない。そういう重みのある、怖い場所でもあるんだ。仮に招集されつつ出場を果たせなくても、実績ある選手に触れるだけで初めての代表組には財産になるよ。練習場にせよホテルでの時間にせよ、そこに見本とすべき振るまい、考え方が転がっている。何かを拾って帰れる選手は、いずれ自分を成長させていく。そうした重みも、中に入ってみないと感じられないことだね。