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「暑さに慣れろ」とよく言うけれど、得策や特効薬はおそらく、ない。永遠のテーマじゃないかな。日本代表のイラク戦から、そんなことがいえると思う。
20年前のワールドカップ(W杯)最終予選、アブダビへ赴いたアラブ首長国連邦戦。9月で夜の試合とはいいながらも、気温は前半が38度、後半は42度!
まともには動けません。前かがみ気味でプレーする名波浩選手(現ジュビロ磐田監督)が、疲れてどんどん猫背になっていったのを覚えている。暑いんじゃない。「痛い」としか言いようがない。鼻と口へ入り込む空気も重く、思い出すだけで「ううっ」と息苦しくなる。
体を慣らそうと、午前中に軽く練習して体を動かそうと試みた日がある。芝生に温度計を置いたら50度近くに達してしまった。たまらずコーチが「やめ。中止」。せめて散歩に、と繰り出したのだけど、それも5分ほどで断念して帰ってきた。
それでいて部屋の中は毛布が要るほど寒い。冷房がガンガンに効きすぎ、屋外との気温差のせいで結露してびしょぬれになるから、窓も開けられない。
こんな調子では慣れるも何も、十分に練習できないわけだから。イラク戦を「面白くない」と感じた人も多いと思う。でもあの環境で勝ち点1を取るのも一苦労なんだ。アラブの人々だって慣れているのは暑さそのものより、しのぎ方でしょう。日陰を活用するとか生活上の工夫だとか。酷暑でサッカーをしたら彼らも似たようなものだよ。敵味方の別なく足をつる選手がいたしね。そうならず、90分間走れていた長友佑都選手や本田圭佑選手はさすが。
過酷な状況では日ごろよりなおさら、技術が身を助けるね。ミスせず、ボールをしっかり保持できるか。相手を走らせられるか。そうすれば自分が走らされる回数は減り、リズムを刻める。例えばブラジル代表なら同じ暑さでも、ミスせず、相手を走らせ、疲れさせ、空いてくるスペースを突いて、技でしのぎきれるんだろう。
日本も勝てたはず? ただ、どのみち残るオーストラリアかサウジアラビアのどちらかに勝たねばならない状況には変わりない。で、勝てば決まり。それほど悲観的になる必要はないよ。
僕は懐かしさも覚えつつイラク戦を見ていた。古めかしいピッチ、まばらな観客。中東のアウェーのまったりした空気。「そう……あの感じに引きずり込まれてしまうんだよな」。埼玉でできる“きれいな”戦いには、絶対にならない。W杯への道はそういうものだということ。まとわりつく苦しさ、難しさ、20年前の感覚がよみがえるようでね。