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この20年でサッカーが日本にだいぶ根付いたとして、では人々にとって「なくてはならないもの」になっているだろうか。女子代表「なでしこジャパン」がワールドカップ(W杯)準優勝という成果を残したことに、そんなことを考えてみた。活躍することで認識は広まる。それが文化へと育まれるには、またもう少し時間がかかるんだろう。
サンパウロ市にあるコリンチャンスが州で優勝する、全国制覇する、南米一になる。そのたびにサンパウロはお祭り騒ぎだ。ではFC東京がリーグ優勝して東京が盛り上がるかといえば、そこまでではないよね。日本には本当に娯楽が多い。隣でベイスターズがプロ野球の試合を繰り広げ、そこかしこで著名人がコンサートを開いているなかで、今週末の横浜FC-熊本戦を第1選択肢として選んでもらえるか。厳しい戦いですよ。
選手が身を置く環境という面でも「文化を変えないと」とよく言われる。女子では特に。でも考えてみると世界一になった米国も少し前は国内リーグが立ちゆかず、選手が苦労したとも聞く。「隣の芝生は青くみえる」と似たところがあって。
横浜FCでいうと、この10年で一番環境の悪かった2006年にJ2を優勝している。100円コインシャワーのお世話になっていた時代。試合前日の週末は一般利用者で混むものだから肩身が狭く、係の人に「横浜FCの皆さんは撤収をお願いします」とせかされてね。ハングリーになるそんな環境でも結果は出し得る。ただ、ハングリー文化だけでもなかなか長続きはしにくい。
Jリーグ元年のころは見る側も新鮮だったんだろう。ヴェルディ川崎戦(現東京ヴェルディ)の視聴率なんて35%近くあった。でもブームさえあればいいわけでもない。新鮮さは薄れ、ブームは去るものだ。
僕も所属したキンゼ・デ・ジャウーのあるブラジルのジャウー市は人口11万人ほどの田舎町。試合に来るのは五百人から千五百人ほど。少ないでしょ? でもここから柏でもプレーしたフランサや、後にサンパウロを経てバルセロナへ渡るエジミウソンが生まれた。
エジミウソンが自分の経歴を語るうえで、うっかりジャウー時代を飛ばしたことがある。「恩を忘れたのかい。お前が育ったのはバルサでもサンパウロでもなく、ジャウーだろ」と市民が僕に怒るんだ。「だからカズ、お前は絶対にそんなことはしないでくれ」と。彼や僕など、自分たちのもとから世界へ巣立って活躍する存在がいることが、ジャウーの人々にとってはいつまでも「誇り」なんだね。
Jリーグでもなでしこでも、そういう誇りが文化になっていくんじゃないかな。視聴率30%とか観客が毎回5万人とか、ボリュームだけがすべてじゃないよね。