BOA SORTE KAZU

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BOA SORTE KAZU

“サッカー人として”  2015年05月08日(金)掲載

“サッカー人として”
2015年05月08日(金)掲載

子どもに刻まれる印象

 「ドリブルで全員抜いて、シュートしろ」。小学生のころそんな風に教わった。「取られるまでドリブルしていていいぞ」と。開放的で楽しくて、失敗をとがめられもしなかった。パスに逃げたときだけ、怒られた。


 いま小中学生の練習をのぞけば、僕らJリーガーとあまり変わらない指示を受けている。ディフェンスで絞れ。ギャップで受けろ。クサビを入れろ。僕の少年時代はそんな用語、耳にしたこともない。「ドリブル」しか思い出せません。


 子どもはもう少し自由でいいかもと思う半面、欧州では子どものころから戦術眼を植え付けられることで、その通りに動けるようになるとも聞く。どちらがいいのかは分からない。ただ、Jリーグクラブが50を超えたいまは、僕の時代よりプロは子どもの身近にいる。


 リベリーノの足技を、木村和司さんのドリブルを、この目で目撃したときの衝撃は、どんな指導より雄弁だった。プロのプレーに生で接することが、子どもには一番の指導なのかもしれないね。サッカーは細かい部分で決まる。だから細かな戦術や理屈も大事。ただ、単純なものは好かれる。分かりやすいものは身につき、マネしたくなるものは広まる。


 小学生のころ、静岡に石野真子さんがやってきた。プードルを連れ、ミニスカートでさっそうと車から足を降ろし……。びっくりしたあの光景はいまでも克明に思い出せる。犬といえば練習中にお尻をかんでくる野犬しか知らないのに、あの上品な犬は何? 「スターってすごいなあ。僕もなりたいなあ」と思ったものね。


 だからサッカーを見に来た子どもには、頭をなでてあげたり、握手をしてあげたりするように心がけている。6歳の少年ならこの先の80年近く、忘れないだろうから。僕もそうなのだから。


 小学生で鎌倉の大仏を見に行った。初めて見上げた大仏は「うわあ」とのけぞるほどだった。もっとすごいぞと聞かされ、中学生で訪れた奈良の大仏。鎌倉のときほどピンとこない。現実には奈良の大仏の方がより巨大で"すごい"はずなのに。


 メッシやロナルドのスーパープレーや超絶テクニックも目にできる今、30代の選手がこう言う。「でも、子どものとき見たカズさんのゴールやカズダンスの方が、印象は強くて」。心に最初に刻まれたインパクトって、超えられない。「こんな女性がいるのか」と僕の胸が震えたのは19歳。伴侶のあの美しさを、超える女性は僕の中で見当たりません。