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ブラジル代表のネイマール選手が来日した先日、対談の機会に恵まれた。あれだけ世界的に有名になったのに、誠実で、勘違いしているそぶりがない。ポルトガル語でいう「ウミウダージ」(英語ではHumility、謙虚さ)。あの人なつっこさ、柔らかな物腰と接し方は、サントスで育ったころのままじゃないのかな。
僕もサントスのジュニオール(下部組織)からプロになった。いつだか練習後の控室で、シャワーを浴びたばかりのペレと鉢合わせたことがある。コーチから「こいつはカズ。日本からきた、ジュニオールにいるいい選手だ」と紹介されると、ペレは「カマモト(釜本邦茂氏)を知っているか。ものすごいFWだ」と言う。素っ裸のままでね。
そのペレが大先輩、ネイマールは後輩、という位置づけに間違いはないんだけれど、僕にすれば「いえいえ、後輩も何も……」と申し訳なくなってしまう。活躍度で比べれば、まばたきにもならないほど小さいから。
それでも対談で、クラブという存在を通じてつながれたのは喜びだった。じつに25年前になる僕のゴール映像を2人で振り返る。「これ、(本拠地の)ベルミーリョだね?」と彼も楽しそうだ。四半世紀が過ぎても、歴史でつながれる。まばたきほどであっても、自分の足跡が功績としてクラブに生きている。「ああ、サントスでプレーした意味とはこういうことなんだ。頑張ってきてよかったな」とこみ上げるものがあったよ。
サントスに住んでプレーしたブラジル選手の多くはあの街から離れたくなくなる。サンパウロからは車で50分ほど。でも山の上のあちらが寒い冬場も、潮風に吹かれるサントスはしっとりしている。ちょうど熱海のイメージかな。ゆったりと時間は流れ、のんびりしている。
その空気はサッカーにも投影される。そこでは「喜びとともにプレーすること」が大事にされている。ピッチで個人の発想が温かく尊重される。このサントスの育成はネイマールを筆頭に面白い選手を世に出してきた。若かりし僕もあの空気を吸い込んで大きくなった。
ブラジル人はサッカーで分かり合うことができる。遊びの感覚を失わず、常にサッカーを(つまり人生を)楽しもうとする姿勢がある。ネイマールにも「遊びでも、ビーチでもいいから、一緒にプレーしたいね」と持ちかけたら「もちろん!」と即答だった。砂浜でもどこでも、ボールさえあれば喜びを分かち合えると心の底で思っている。あれほどのスターでも同じなんだ。
実現したら、ペレ、あなたも一緒にやりましょう――なんて、恐れ多くて大先輩には言えないです。