BOA SORTE KAZU

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BOA SORTE KAZU

“サッカー人として”  2014年06月06日(金)掲載

“サッカー人として”
2014年06月06日(金)掲載

勝つ「ため」にすべてを

 ブラジルにいたころ、親しかった女性はサッカーにまるで興味がなかった。関心があるのは僕の出る試合だけ。そんな彼女が1990年ワールドカップ(W杯)決勝トーナメントでブラジルがアルゼンチンに敗れた途端、がっくりうなだれた。ぼうぜん自失、ショックで抜け殻のよう。「やっぱりこの人もブラジル人なんだ」と妙に納得した。そしてセレソンはそれだけの存在なんだ、と。


 でも、さすがはブラジル人。すぐ悲しみも忘れてハッピーになれる。「4年後があるわよ」。立ち直りも早い人たちでね。


 ともあれ、ブラジルという国はサッカーで生きている。その頂点にあるW杯の存在は計り知れない。「メッシとマラドーナ、どちらが偉大か」という議論がよくなされる。でもサッカーのスタイルも置かれた状況も異なるから本来は比べられない。そこでブラジル人はどうするかというと、「W杯に何回出たか」「何回優勝したか」「何点取ったか」との数字を指標にする。「ペレはW杯に4回出た。生涯で1,000点以上得点した。ネイマールはどうだ?」。そして試合の結果や内容を求めるサッカーへの社会的な要求である「コブランサ」も、とてつもない。それが選手を強くもするし、ネイマールは1試合無得点なだけで“絶不調だ”とされてしまう。


 日本代表は壮行試合、コスタリカ戦にも勝った。期待も高まっているでしょう。ただこれら練習試合の結果は、本番とはまったく関係ありませんので。


 横浜FCの話。今季開幕前にJ1サガン鳥栖と練習試合をした。手応え十分で「鳥栖、強くないよ」と選手は口々に言う。いま横浜FCはJ2で18位、鳥栖はJ1の2位。同じくプレシーズン、知人はJ2ジュビロ磐田を見て「すごく強いです」という。選手個々はJ1級だから。でもふたを開ければ9勝4分3敗と思いのほか苦しむ。「何で?」と知人。でもこれは当たり前なんだ。


 練習試合なら相手も自分たちのやりたいサッカーをしてくる。本番は違う。磐田のいいところを全部潰し、自分の良い部分も出そうとせず、ミス待ちでも1点、いや勝ち点1を狙う。守備しかせずに試合をぶち壊すのも辞さない。磐田はやりにくくてしょうがない。本番は別物。横浜FCや磐田はそのまま「W杯代表」に置き換えられるよ。


 そんな本番直前のいまは、頭と体をリフレッシュして自分を100%にする準備のことだけ考えてほしい。無理に「力を高めよう」と考えなくていいし、残る1試合の親善試合が不出来でも不安なんて感じなくていい。「早くサッカーがしたい」。そう心から思える状態にもっていくことだ。


 「勝たなきゃ『いけない』という試合は一つもない」。ブラジル時代、ある監督はそう言った。試合は水物。相手が上回れば勝てないときもある。だから義務を背負うべきものではない。「そこで君たちのすべきことは、勝つためにすべての努力をすることだ。勝つ『ために』やるんだ」。


 勝つために全力を尽くそうとする日本代表を応援してください。僕も30年近く前にアウェー戦で乗り込んだヘシーフェ(レシフェ)へ再び飛んで、代表のすぐそばからエールを送ります。