BOA SORTE KAZU

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BOA SORTE KAZU

“サッカー人として”  2011年04月08日(金)掲載

“サッカー人として”
2011年04月08日(金)掲載

「ありがとう」のゴール

 これまでいろんなゴールを決めてきたけれど、こんなに喜ばれたのは記憶にない。「カズ、ありがとう」「言葉にできない」「ほんと、涙が出るよ」……。今まで体験したことのない、特別な感覚。こういう1点というものがあるんだなと、しみじみ思う。


 後日、「カズ」を知らない小学生がカズダンスをマネしていたと聞き、うれしくなった。僕が想像したよりずっと、慈善試合(2011年3月29日に大阪・長居で行われた「震災復興チャリティーマッチ」)でのゴールは大きくて、重かった。


 闘莉王選手(名古屋グランパス)がボールに競ると感じた時には体が駆けだしていた。目の前の空間にボールが落ちてくる。ロードがぱっと開けたようで、体が覚えているままに僕はシュートを放っていた。無意識のうちにボールのバウンドをとらえ、コースを選んでいる。それは「判断」を超えた、迷いの一切無い、いわばFWの本能だった。


 「今までで一番胸を打ったカズダンス」と知人は言ってくれた。最後に振り上げた人さし指が、震える指から発する思いのようなものが、いつもと少し違っていて、泣けてきたという。


 Jリーグの歩み、日本代表の歴史、1998年ワールドカップ(W杯)に行けなかったこと。日本サッカーにまつわる歓喜も哀愁も背負ったまま、僕はサッカーをやっているのだろう。あの試合に注がれていたのは、見守る人々のそうした「思い入れ」。そして被災されて今なお苦しんでおられる方々の、何かを求め、欲する思い。それらに運ばれたゴールだった。大きな大きなゴールに、みなさんがしてくれたんだ。


 祝福とともに「カズ、あんなに足が速かったっけ」とからかわれる。僕やトレーナーは言い返す。「あのくらい走れるよ。あのタイミングで球が出てくれば決められる。ちゃんと練習しているんだから」。サッカーに対する態度や考え方が今日までぶれなかったからこそ、あのゴールに至っている。やはりすべてはつながっている。素晴らしいです、サッカーは。


 そして僕のサッカーは続く。あのゴールも「一つのゴール」になる。リーグ戦でもまた心に残るゴールを一つでも多く挙げ、みんなで祝杯をあげたいですね。もっと愛されるゴールを目指して。まあしかし、あれ以上のゴールというのは、なかなか……。