BOA SORTE KAZU

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BOA SORTE KAZU

“サッカー人として”  2009年10月16日(金)掲載

“サッカー人として”
2009年10月16日(金)掲載

年越し決戦の充実感

 僕は天皇杯の決勝を3回経験したけれど、読売クラブで最初に臨んだ1990年大会では、2回戦で国士舘大に敗れているんだ。当時はラモス(瑠偉)さんなど黄金期メンバーがそろい、リーグ戦で敵無しのドリームチーム。それが実力なら下のはずの相手に押され、どうにもならない。1-0から追い付かれてPK戦で散った。波乱の歴史なら知っていたはず、気は引き締めていたはずなのに、油断に似たものが出たんだね。


 今年は浦和レッズなどが不覚を取った。Jリーグ勢がアマチームに苦戦する、おなじみの番狂わせも起きている。リーグにもエネルギーを注入せねばならない上位陣には難しい戦いだし、「何としてもJリーグ勢と対戦する」というアマ勢の意欲と一戦にかける熱意はすごい。あの意欲を前にスキをみせれば食われてしまう。


 ヴェルディ川崎で天皇杯を制した1996年を振り返ると、そのスキを与える油断がなかったね。レオン監督は厳しく細かく、常に100%の戦いと勝利を僕らに求めた。大会序盤でアマチームに4-0で大勝した試合。2得点した僕を監督はとがめる。終了間際、GKとの1対1を決め損ねたことに「ポンと上に蹴れば簡単に入るじゃないか」。もっと点を取れたはずだと言い出す。その「うるささ」にめげてはダメで、疲れる練習で疲れた表情を見せてもいけないんだ。そこを乗り越えた僕たちのチームは強くなり、団結していった。


 天皇杯の波乱も序盤までで、準々決勝あたりから意識も変わる。敗れたチームはオフ、生き残ってサッカーができるのは自分たちだけ。征服感とでも言うのかな。休みたいという思いも、ここまできたら優勝するという欲に転じていく。


 決勝を控えた大みそか。にぎわう世間をよそにホテルで翌日に備える。外界は新年へ移ろうとするのに、自分はあと一つ大きな仕事を残している。そのギャップが生む特別な感覚。初詣でのざわつきを遠く感じつつ、僕の頭はサッカーで満ちる。天皇杯優勝というものに支配される。近くの寺から響く除夜の鐘を聞きながら、目を閉じる……。


 天皇杯をいつまで戦うかでオフの長さに大きな差が出るから、日程をずらす考えもあるだろう。でも、あのしびれるような充実感を思うと、やっぱり元日決勝がいいね。