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ドーハの悲劇のころ、プロ野球選手が「日の丸を背負えるサッカーがうらやましい」と話したのを覚えている。第2回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)では、選手たちが国民の期待の重みを感じてプレーするのが伝わってきた。
決勝戦で決勝打を放ったイチローさん。「(運を)持ってる」と形容されたけど、あれは努力だと思う。打てるときも打てないときも同じ姿勢で努力し、日々バットを振って打てなくなる不安をぬぐう。努力が精神の安定感として実を結び、あの場面でも打てたんだ。あの一打にすごく色々なものが詰まっている。それが「持ってる」の一言で片づけられるのはあまり賛成できないな。
昨年暮れ、グアムの空港でのこと。「ヘーイ、キーング・カズ!」とウキウキの声がした。日本人がサインを求めにきたのかと怖々振り向くと、寄ってきたのはWBC日本代表監督の原辰徳さん。面くらいつつ野球好きの僕の息子を紹介したら、「それじゃ、ジャイアンツで待ってるぞ!」と手を振って去っていった。なんというさわやかさだろう。そんな原さんの人柄もプラスに働いたんだろうね。采配も当たり、チームに和ができていた。
韓国との熱戦は両国の心の距離を縮めた気がする。スポーツの力の前では、政治的な争いや思惑はくだらなく思える。
誰かが失敗したら誰かが助ける。子どもたちには最高のお手本だ。喜んでいる息子に言ったんだ。「勝つことよりも、あれだけの人たちが一生懸命に力を合わせて頑張った、そっちが大事なんだ。分かるか?」と。いずれ分かる日が来ると信じているよ。
そして我らがサッカー日本代表もワールドカップ(W杯)予選でバーレーンに勝った。1-0は最高のスコア。1-0で勝つのが一番いいんだ。失点なく1点を取る、サッカーはそういうもの。それだけ1点は大変で、相手がどこであれ厳しいんだ。
青一色で揺れるスタジアムにサポーターの誇りをみた。「応援で野球に負けない」という無言のメッセージ。今日まで日の丸がたどった悲劇と歓喜を見守り、支えてくれた人たちのプライド。僕はそれを感じた。そして、そうであってほしいと願った。