BOA SORTE KAZU

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BOA SORTE KAZU

“サッカー人として”  2024年11月08日(金)掲載

“サッカー人として”
2024年11月08日(金)掲載

成功が何千分の一だったとしても

 プロ野球パ・リーグを13.5ゲーム差で優勝し、日本シリーズでも早々と連勝してシリーズ14連勝中だったソフトバンクが、思いも寄らぬ4連敗へ陥っていく。「常勝」チームのこの成り行きを予想できた人が、どれほどいただろう。


 米大リーグワールドシリーズ第5戦、五回のヤンキースはえたいの知れぬ波にのまれたかのようだった。まさかの落球、守備カバーミス。5点リードの四回までなら想像もしなかったシナリオへと暗転していく。


 ときに勝利や「成功」は、いかんともし難い流れの先にある。ちょっとしたズレで遠のくかと思えば、呼んでもいないのに、運が向くときは向いてくることも。


 FWとして、なぜゴール前のあの地点に走り込まなかったのだと後悔し、次にそこへ入っていくと、もと立っていた場所にパスが出てくる。思い切って飛び込んだら、タメをつくって待った方が正解だったり。そうやって好機を逃すうちに、向いてくるはずの流れをつかみ損ねたり。


 亡くなったスキラッチ(元イタリア代表)が生前、1990年ワールドカップ(W杯)得点王のことを尋ねられ、冗談交じりに答えていたっけ。「何だか知らないけれど、いいところにボールがこぼれてくるんだよ」


 言われてみれば「ドーハの悲劇」の1993年のイラク戦、僕の先制点も、長谷川健太さん(現名古屋グランパスエイト監督)のシュートがクロスバーに当たり、どういう風の吹き回しなのかボールが転がってきたんだった。シュートを空振りしたはずが、その球があれよあれよと自分の足元へ戻ってきて決めた得点もある。流れなるものは気まぐれだ。


 J1川崎フロンターレの小林悠選手は出場時間に対する得点率の高さで知られる。ただ、彼は試合でうんざりしそうなほど、何度もゴールのための動き出しを繰り返している。大半は実らない。成就の確率でいえば何十分の一以下じゃないかな。


 日米通算で4367本もの安打を重ねたイチローさんがよく言っていた。「よく打つといっても、7割は失敗しているんですよね」。自虐ではなく核心をとらえているよ。米プロバスケットボールNBAのマイケル・ジョーダンだって「シュートを何千点も入れてきたけど、何万回も失敗してきた」と語っている。1試合平均30.1得点を誇ったバスケの神様がですよ。


 それでも僕らアスリートは、無慈悲な確率であっても、立ち向かう。得られる・得られないが問題じゃない。そこへ挑む過程自体に、努力に、価値と尊さがあるはずだと言い聞かせながら。


 蹴ればよかった、と後悔したPKがある。クロアチアのザグレブに移籍した1999年、加入したての試合でPKを外した。次にPKを得た試合、僕は味方にキッカーを譲った。失敗の怖さにひるんだのかもしれない。


 この10年ほど、週に3回は居残りでPKの練習をしている。この間、実際にPKを試合で蹴ったのは2022年の1度くらい(成功)。およそ1500回やっても1回程度しか巡ってこないもののために努力を続けるなんて、笑われるだろうか。


 失敗と成功の、かくも手に負えない真実に立ち向かう人々に、ロベルト・バッジョ(元イタリア代表)の言葉を贈りたい。1994年W杯決勝のPK戦で涙の失敗に見舞われた彼は後にこう語った。「PKを失敗できる人間は、勇気を持ってPKを蹴った者だけだ」