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夏の高校野球が閉幕した。僕は子どものころから野球が大好きで、夏休みのサッカー合宿のときもテレビやラジオの甲子園の実況中継が楽しみだった。家の近所の強豪・静岡高校から聞こえる野球部のバッティング練習の音に影響されて、プラスチックバットとゴムボールを持って遊びに出掛けたりしていた。
ブラジル時代はテレビ観戦もできなかったので、同世代のPL学園の「KKコンビ」については、知っていたけれど強い印象はない。それよりも小学生のときに見た東海大相模の原辰徳さんとか、初出場初優勝で旋風を起こした桜美林の方が記憶に残っている。
23歳で帰国してからは、チームより個人に注目して見るようになった。例えば松井秀喜さんや松坂大輔さん、去年だと斎藤佑樹、田中将大の両投手。飛び抜けた存在は、やっぱり気になるものだ。
そんな選手たちの中で、一番印象深いのは名古屋電気高(現愛工大名電)の工藤公康さん。僕が中学3年のとき、延長12回を一人で投げ抜いて21個の三振を奪った試合をテレビで見て、縦に割れるカーブというものを初めて知って驚いた。
そしてプレーよりも心に残っているのは準決勝の報徳学園戦、チェンジの際に相手の金村義明投手に笑いながらボールを手渡していた姿だ。ふざけていたわけじゃなく、いい意味での余裕があるから出てきた笑顔なんだろう。泥まみれになって必死にプレーするのが当たり前という高校野球の空気の中で、すごくクールに見えて衝撃的だった。
それに、自分の納得いく球を投げて打たれたら仕方ないというプロっぽい態度。高校生なのに自分の「見せ方」を知っているというか、見ている人を引きつける、喜ばせるものを持っていたんだと思う。競技や年齢を問わず、そんな「プロ」を感じさせる選手にはいつも魅力を感じる。
今年で44歳になった工藤さんからは、まだまだ意欲もパワーも伝わってくる。選手としての底を感じさせず、もっと何か見せてくれるんじゃないかという雰囲気を持っている。それはちょうど、ミステリアスな存在という僕の目標と重なる。こちらも負けずに頑張らないといけないね。