©Hattrick
死にかけたチームが息を吹き返す。勝ちそうなところから奈落の底へ落とされる。ハラハラドキドキのサプライズ。シーズン終盤やカップ戦決勝ともなると、しびれる悲喜劇が生まれるね。
サッカーではハーフラインを越えなくても構わない。何ならペナルティーエリア内を10人で固めてもいい。攻守が順番に回ってくるわけでないし、「攻めない」という割り切りも許される。力の差の埋めようがあるというか、予測しがたいドラマも起きやすい。
本来、優位なのは自分。けれど追いかけられると不思議と優位に思えなくなる。試されるのは、それでも優位を信じられるメンタルを持てるかどうか。
J1優勝目前で横浜F・マリノスが下位によもやの連敗を喫して足踏みする。後半追加タイムの土壇場で、J2ベガルタ仙台が昇格プレーオフに望みをつなぐ。そしてJ2で18位、7連敗中だったヴァンフォーレ甲府は、J1でも好調のサンフレッチェ広島に天皇杯決勝で競り勝った。Jリーグよりも長い歴史を誇るタイトルには、つかんだ者だけが分かる誇りというものがあってね。
J2に配慮して試合日を動かしてはもらえないだろうし、来季、アジア・チャンピオンズリーグを並行して戦うのは相当、過酷になるはず。でも、アジアでもサプライズを起こしてほしい。週末に甲府で戦い、水曜にはタイでひと試合、次はベトナムへ転戦。こんなに苦しくも幸せなことはないよ。そうやって選手とクラブが強くなれる歴史の入り口にヴァンフォーレ甲府は立てているんだ。「俺たちも」と、鈴鹿ポイントゲッターズのようなクラブにも夢を与えてくれる。
終わったと思いきや、首の皮一枚つながって視界が開け、それが新たな歴史の一歩だったりもする。1997年のワールドカップ(W杯)アジア最終予選。僕らの日本は2試合残してB組3位で、同組2位のアラブ首長国連邦(UAE)が勝ち続ければプレーオフ進出の2位以内は難しかった。そこでUAEがホームでドロー。あの他力が働かなければW杯初出場もかなわなかった。
かと思えば、1993年にはドーハで後半追加タイムに追いつかれて悲運に泣いた。幸運と不運、自力と他力、五分でもつれながら歴史は紡がれていくんだろう。
横浜FCもここにきて連敗、一つ間違えばどう転んでいたか分からない。今のJ2は甘くなく、1年でのJ1復帰は簡単じゃない。ただし「ここで負けたら本当に危ない」という試合はすべて勝っていた。自力と他力の海を渡りきり、最後に喜ぶことができた。