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ワールドカップ(W杯)アジア最終予選の日本の初戦と2戦目の違いは、メンタルコンディションの差でもあったように思う。
試合前は「どうかな」という感覚でも、最初のプレーがうまくいくと自然と乗ってくることがあるし、士気は高かったはずが、最初のプレーが悪かったばかりに引きずってダメになることもある。うまくいかなかった試合は僕にも思い当たる。
プレーとはまた別の「心の連係」みたいなものがサッカーにはあってね。11人のうち4-5人のメンタルが整っていないと、ほかのメンバーも引きずられてパフォーマンスは落ちうる。逆にメンタルの強い人間が1人いることで、全員が引きつられて頑張れてしまう試合もある。この営みは目に見えないものだし、測りづらい。
今日こそ点を取らなくては。取れなかったらどうしよう。それで負けたら……。考え出すとネガティブな思考がどうしたって頭をよぎる。プレッシャーにすくみかける。1998年フランスW杯決勝、ブラジルのロナウドは重圧のあまり前日にけいれんで搬送される事態に陥った。怪物と恐れられた傑物でさえも、だ。
中国戦で得点した大迫勇也選手の表情は、他のゴールのときとは少し違っていた。素直な喜びというよりは、怒りにも似た迫力があった。オマーン戦での自分に対する憤り、それらを覆してみせたぞという心の叫び。ああいう激情が出るのがFWという種族でね。それだけのものを背負っているんだ。
プレッシャーという厄介者に対しては、日ごろからコントロールするイメージを持っておくしかないね。失敗がちらついた途端にネガティブにならない習慣を普段から身につけておく。
僕の場合だと、代表活動中のホテルでは雑念を払って「無」になれる環境をつくっていた。外からの情報は一切シャットアウト。SNS(交流サイト)全盛の今だと難しそうだけれど、重圧の逃がし口は必要でね。
中国戦当日、長友佑都選手からメッセージがきた。「スープ、どれが気に入りましたか」。彼が製作に携わった自慢の5品目ほどをもらっていた。緊迫みなぎる一戦を前に、スープ。この余裕をみて「中国戦は大丈夫だな」と僕は思いました。
持ち上げられ、こき下ろされ、嫌というほど経験をしてきた彼は、むしろプレッシャーという刺激を自分から欲しているんだろう。老いも若きも人生にプレッシャーは様々あれども、なければないでダメとも思う。刺激が適切に加えられないと人間は弱る。代表でいえば、背負いきれないようなあのプレッシャーが選手を強くする。
「スープ、いまいちです」と返答しようとも思ったのだけど、そんな冗談でメンタルが折れたら責任取れないので、やめておきました。