©Hattrick
Jリーグに来たブラジル人が驚くことがある。給料日が土日に重なると、前倒しで金曜に支払われている。「振り込まれるとしても、どんなに早くても翌週の月曜以降が普通なのに。なんて素晴らしい国だ!」。
ブラジルだと半数以上のクラブで給料未払いがあるんじゃないかな。「お金がないから」と開き直られる、約束に対してルーズ。海外だと珍しくもないよ。
僕も1999年のクロアチア・ザグレブでの在籍期間、給料は支払われなかった。退団時、未払い分をいつまでに払い、期限を守れなければ延滞分も加算されると取り決めたものの「そば屋の出前」で、支給は先延ばしに次ぐ先延ばし。
雪だるま的に額が膨らむだけでらちがあかず、国際サッカー連盟(FIFA)の仲裁部門へ持ち込んだ。罰則をちらつかされたクラブ側が「選手を売って工面ができたら払える。そこまで待てるか」と折れて、合意。正当な給料を手にするまでにかれこれ2年もかかった。
この種のストレスや心配が付き物だから、条件の良い海外よりもJリーグを選ぶブラジル人監督もいる。同じ体験をした者として、セルビアで未払いを巡ってこじれた浅野拓磨選手の心情はよく分かる。いい加減な事情で退団したのではないはずだ。彼とは裸の付き合いならぬクラブの付き合い、カズナイトで一緒にフィーバーした仲。いい形で解決することを願っています。
選手個人では太刀打ちできない事柄がある。だからブラジルではよく選手会で集まり、声を束ねた。「胸スポンサーを露出しているのはピッチ上の俺たちだ。その報酬の一部を受け取る要求をしたい。どうか」。割合は微々たるものであっても、勝ち取れたことがある。
そのブラジルから1990年に帰ってきたとき、日本では「代表選手の権利」という概念すらなかった。だから僕は訴えた。あるべき勝利給、待遇。それらは後に、お菓子やカードに使われる選手の肖像権などへつながっていく。
権利をかけて戦った経験がなければ、自分の権利という発想すら思い浮かばないかもしれない。何かを言われ、言われるがままを当然とするのは、むなしい。契約書をしっかりとみる、人任せにしない、言うべき事は言う。プロだもの、その意識は忘れずにいたい。