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東京五輪のマラソンや競歩の開催地が急きょ変更されて波紋を呼んでいる。この件は東京か札幌か、暑さか涼しさか、という問題ではなくて、コミュニケーションの問題だと思うんだ。
中東の陸上世界選手権で棄権者が続出して酷暑が問題視され、日本にとっては2回目の「ドーハの悲劇」のような気もするけど、選手の体を守るための判断も一理ある。ただ、ベストでない条件下で競うのもスポーツの一要素。新しい国立競技場へゴールしたいという日本選手は当然いるし、海外選手には東京も札幌も大差なし、かもしれない。
議論百出だからこそ、意見のやり取りが密であるべきで、今回はその対話が不足していたんじゃないかな。「選手ファースト」とは選手の意に沿って物事を決めることじゃない。話し合う場をきちんと設けることこそが、選手ファースト。
サッカー界でも対話が滞ることはあって、例えば外国人選手枠はリーグから十分に説明されぬまま、撤廃になりかけた。「選手には死活問題。下のカテゴリーほど職からあぶれかねない」と僕も選手会で意見して、日本選手にも配慮された制度に落ち着いたんだ。
選手の声を全部かなえろというのは見当違いで、選手がやりやすいだけのスポーツになるのはよくない。だけど対話を通じ、妥協案を見いだすことはできる。
暑いよりは涼しい方がベターだとしても、様々な意見に耳を傾けると「なるほど」とうなずかされる。東京の町並みを走る姿を眺め、東京の五輪を実感したいという観衆の声もしかり。コースをライトアップして夜に開催しては、との案も面白い。輝くビル群を縫って走る、きらびやかで、メガロポリス東京ならではのマラソン。対話を活発にすれば意見に伴われて、解決策につながりそうなアイデアもどんどん出てくるよ。
ささいであってもまめな対話を心がけていたいね。先輩・後輩の隔てなく、垣根が低いのがサッカーのいいところで、横浜FCの大学生などは年上の選手でも「○○くん」と気さくに呼ぶ。上が偉いとか、変な忖度(そんたく)なしで率直。そうやって風通しのいい方がいい。
「俺も『カズくん』でいいぞ。何なら『ズーカー』でも」と言ったんだけど、乗ってこないんだよな。