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マンチェスター・シティーにせよどこにせよ、最近の来日する欧州の強豪は“ちゃんと”戦ってくれていると思う。かつてのようなバカンス色は薄く、プレシーズンのなかでのベストを日本勢に見せてくれる。一昔前までなら「見る」対象だった、世界の一流。そこには一流を一流ならしめるディテールがあるだろう。
マイアミへ出向いたときのこと。2軒のレストランがさほど離れず並んでいた。外観は大きな違いはないし、メニューも大差はない。なのに、片方はお客でいっぱい、もう片方はガラガラ。
僕もにぎわう方へ行ってみた。やはり空席はない。そこですかさずマネジャーらしき男性が声をかけてくる。「君は日本人かい? OK。ちょっと待って。俺が席をつくるから」。言葉巧みに僕らを引き留めると、間を置かず言葉通りにテーブル席をしつらえてくれた。
2人ならそこ、5人ならあそこへ。彼は席の動向を把握しながら、頭の中の配置図でパズルを解くようにてきぱきと差配していく。客は隣の店ならすぐに座れるのに、彼の存在に誘われるように次から次へ、混雑する方へ引き寄せられる。店を繁盛させる一流の仕事だね。
ディテールなるものはちょっとした、さりげないものでありもする。ある知人が譲りものの上着を着ていた。50万円はしそうな品。ところが、ちっともよく見えない。合わせるシャツがどこかずれていて、上着の良さが死んでしまっている。寿司職人でもある彼へ、僕は言った。「乗せるマグロの赤身がでかけりゃ、おすしはうまい、とはいえないでしょ。わさびや酢の加減、微妙な握りの具合、目に付かない細部も大事でしょ。身だしなみも一緒。靴やシャツへも気を配らないと、100万円のジャケットだろうが台無し」。
洋服の職人は、裾や丈のほんの0.5センチがスタイル全体のバランスを生かしも殺しもすることを知っている。このコーディネートなら靴のヒールは4センチ、といった心得は僕にもある。そこで3.5センチなら、どんなにいい靴でも買いません。ピッチでも同じ。ボールをどこに止め、置くかの10センチの差。あと1メートルを寄せられるか、判断をコンマ1秒早くできるか。いいサッカーはディテールの積み重ねだ。
日ごろは空きもある会場が、マンチェスター・シティーが来たら人であふれる。「アクセスが」「開催時刻が」などとよく言い訳を探しがちだけど、質を伴う一流であればそこは問われないということだね。僕らも言い訳に逃げることなく、技と質を磨かないと。