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優勝争い、残留争い。秋口の選手は順位を意識せざるを得なくなる。優勝できるだろうか、残留できるだろうか。この類いの無言の圧力は、日ごろから感じている方がいいと僕は思う。
100連勝していても連敗したら「彼らの時代は終わった」と言われてしまう。バルセロナなどがそうだね。引き分けはちょっとした“負け”の感じ。負けたらもう罪を犯したかのよう。ヴェルディ川崎(現東京V)で僕もそう思っていた。5連勝後に1分け1敗でもしたら、この世の終わりのような悲壮感がクラブの隅々まで満ちてきた。ピリッとした緊迫感に浸れた。強者とそうでない者との差は、そんな空気の差でもある。
「カズ、大問題だ。恥ずかしいよ、俺は。変えなきゃ」。12勝6敗だった1993年第1ステージでラモス瑠偉さんが深刻に話す姿を覚えている。大問題……。12勝6敗は横浜FCなら“いいね”なんだけどね。昇格プレーオフ圏に近づく7位に上がり「良くなった」と言われるいまでも、13勝12敗8分けだから。
落ちていくチームには、どこかに緩みができている。それは練習や規則にささいな形で現れ、見過ごされていたりする。横浜FCのある勝利日の翌日。1、2分だけ練習開始に遅れた選手を、中田監督がものすごく怒った。「9時30分から練習なら、5分前には準備しておかないとおかしいだろ? 一回勝ったら、もう緩むのか!」。
以前なら15分前までスマホに興じている選手がいた。そんな「なあなあ」な空気は薄れ、いま、みんなの行動は早い。あの7月からチーム状態が上向いているのは無関係ではないと思う。
残留争いの佳境では連勝できれば道が開ける。でも怖いことに、その連勝をつかめなくなる。順位がばらけてくる夏場に「まだ大丈夫」と思っていたチームは、もう手遅れのことが多い。「これ以上は悪くならないだろう……」。それは噓です。そう思っているうちは、どこまでも悪くなるよ。
横浜FCからキャリアをスタートして、30歳を超えてもプレーする選手がいる。それは2006年の昇格を通じてJ1で力を示す機会を得て、他クラブに招かれることができたからだ。J2やJ3ではダメというわけじゃない。ただしJ1に身を置くことは現役を長く続ける可能性を広げてくれる。選手の寿命にも関わってくるんだ。
残留、あるいは昇格をつかむための正解は僕らには分からない。できることは、その意味するものをよくよく考えることだ。40歳や50歳になったとき、どう生きていくのか、自分が何で生きているのかを見つめることでもあるよね。