©Hattrick
その昔、日本サッカーはずる賢さが足りないと言われた。いつも全力、守備に回ればとにかくボールと相手を追い回す。でもリードする状況なら誰かが足を痛がってでも時計を進めるといった、マリーシア(抜け目のなさ)が欠けていると。
今では、5月22日(2016年)のセレッソ大阪戦にFWで先発した僕も相手ボランチを背にしながら賢く守備をする。ボランチを“消す”役目だけど、ひたすら張り付くわけじゃない。ボランチと相手CBを結ぶ線上に立ち、背後を見ながらパスルートを切っていく。ポジショニングや味方との距離感、駆け引きも交えて主導権を握るわけだ。時には口で攻撃もしたりして。
それは10年ほど前のリーグ戦での一コマ。左MFの僕の対面に相手がわざとスピードスターをぶつけてきた。「カズのところで勝負しろ。縦にいけ」と相手監督がベンチから叫んでいる。スピード勝負じゃあ旗色は悪い。そこで僕は快足君の耳元でささやく。「足が速いんだって? 見せてくれよ。俺をちぎってくれよ。抜いてみろよ」。すると彼は勝負してこずにパスを選択してくれて……。
人間、ことさら言われるとやりづらくもなるからね。褒めるようで逆にプレッシャーをかける、そんな心理戦もマリーシアの一つ。
パラグアイにコロンビアなど南米はどこもしたたかさがサッカーに根付いている。ピッチ脇に予備ボールのない時代、ホームチームがピンチでクリアするとしばらく試合が止まってしまう。スタンドに飛んだボールを観客が戻さない。見る人までもがマリーシア。相手のじらし方が実にうまい。
日本はプレーのペースがワンテンポとも指摘されるけれど、南米は守るなら割り切ってベタ引き、と思ったら急に攻撃してくる。ゆるゆるパスから急に全速力へ。元日本代表のラモス瑠偉さんはその辺りの緩急が抜群だった。相手を走らせ、自分は汗すらかいていなさそうでいて、走るとなるとものすごく走る。フィジカル全盛の傾向にある現代は、そんな名手が減ってきたのかもしれないね。
それでも勝てるチームはしたたかさを組織として備えている。あのセレッソ大阪戦で横浜FCは87分に先制、勝利をつかみかけた2分後に失点してしまってドロー。もっと抜かりなく、試合を終わらせるようにしないと。
強いチームは逃げ方も知っている。それも一種のマリーシア。ボールとゴールをうまく盗み、逃げるのもうまい……。スリが腕利きなのもブラジルらしさです。