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先発したギラヴァンツ北九州戦で61分間出場し、翌朝の練習試合も出たいと直訴したら「やらないで」と却下された。僕は85分で交代を告げられても「あと5分出たい」と思うタイプなんだけどね。
61分間。46歳。リーグ通算155得点。選手には数字がつきまとう。お金の額や時間、人はみな数字に追われている。米国の会社経営は3年で数字を残せないと失敗だと聞く。サッカーでも分析技術が発達し、すべてを数値化できそうだ。
FWがシュートを1本しか打たない、カズはシュート0本――。それは“正確な数字”かなあ。FWだけで結果は決まらないし、どこまでがFWの数字だろう。打点王、ホールド王、リバウンド王……。個人タイトルがサッカーに少ないのは数字にしにくい競技だから。昔、日本リーグ時代は「アシスト王」があってね。アシストの一つ手前で貢献したプレーもアシストに加算されるなど、何かと無理が多くていつの間にかなくなった。
「彼のワンプレーで勝てた」という仕事を2桁のゴールやアシストの形で残せれば、選手の値段もケタが上がる。すごくうまくて能力があるのに、その仕事を数字にできない選手もいる。僕は得点数を意識しなさ過ぎてダメだった。FWっぽい仕事はできたけど、もともと中盤を好み、前線でボールを待ち続ける柄でもないし、ストライカーとしては失格。純粋なFWではないのにあの数字が残ったのは奇跡的に珍しいと思うよ。
数字に出ない役割もよく見たい。DFなんて仕事を数字で残せない。イチロー選手(ヤンキース)が「22打席ノーヒット」と騒がれる。でも1点を阻止できる彼の守備には1点や1安打と同じ価値があるという評価もできる。横浜FCに加入した某大卒FWの話。よく走れるし、走行距離ならかなり多い。「もっと走れ」と鍛えられてきた彼が、プロで「そんなに走るな」と指示されて面食らった。
要求されたのは「考えて動き、スペースを埋めろ」。僕も一つ教えてあげた。「君がどんなに速く走れても、基本的にボールの方が速いから」。味方との距離や位置を踏まえないと、どう追いかけてもボールには届かない。どう走るか、いつ全力で走るか。数字だけでは見えにくい部分だ。
数字を残すのがプロ。数字に表せないものを表現するのもプロ。僕は数だけにとらわれて生きたくはない。