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イタリアやクロアチアで必ず耳にする話題の一つは「会長はサッカーを分かっていない。サッカーの素人なのに口を出して」というものだった。あたかも世界共通の愚痴みたいにね。
クラブのオーナーになる人というのは、もれなく、ある業界で成功した人だ。そして何かを築き上げた人というのは「一番になる」のが好きなんだね。負けず嫌いで自信もあり、一番でなきゃ嫌、というタイプ。
渡辺恒雄・読売巨人軍会長もそんな一人だろう。昔、「早く孫の顔がみたいよ」と笑いつつ、こう語っていた。「でも息子はオレの血を受け継ぎ、オレが育てた。その家族になる嫁を決める権利は、オレにもある。会って、見て、良くなければ結婚させないよ」。渡辺さんの根本的な考え方は、そんなところに表れているかなあと僕は理解している。
チーム事情を知らないと納得できない。自分のチームが負けるのは我慢ならない。だから口も出す――。悪い面もいい面もあるだろうね。ただ今回の球団代表と会長の騒動については、ちょうどソフトバンク-中日の日本シリーズと重なってしまった。一年で一番大事な試合の時期に、別の話題でにぎわうのは野球界にとって良くないと思う。忘れてならないのは、ファンの目線で見なければならないこともたくさんあるということ。娯楽産業としてのスポーツ界はスタジアムにお客さんが入ってくれてこそ成り立つものだから。
強者になるチームが必ずたどる道がある。出来たてのクラブは、まずは決勝の舞台に立ちたいと願う。その決勝で敗れ、カップを掲げる優勝者を眺め、お膳立てしかしていないような寂しさを味わうとき、初めて「2位では駄目なんだ」と気づく。自分が積み重ねてきたことに意味のないものはないとしても、勝負の世界は優勝しなければ意味がないのだ、と悟る。「一番になる」というモチベーションがクラブを強くする面は、それが選手のものであれオーナーのものであれ、現実としてあるからね。
ヴェルディ川崎で優勝した年、渡辺さんは景気よく「ボーナスで一億円出すから、みんなで分けろ」と言ってくれた。では、と当時の社長に頼み、それを元手に練習場を一面作ってもらった。「10億円かけて2位ならば、翌年は20億円つぎ込め」。渡辺さんならそう言う。「何でもカネで……」と批判もされるけど、それはそれで、プレーする側としては夢があった。頑張って勝てば勝つほど、強くなり、良くなる。あの強いヴェルディは見る側にも夢を与えていたんじゃないかな。