BOA SORTE KAZU

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BOA SORTE KAZU

“サッカー人として”  2011年03月11日(金)掲載

“サッカー人として”
2011年03月11日(金)掲載

雪でも泥でも、敗北でも

 開幕戦に敗れた夜、しばらく寝付けなかった。お客さんが1万1千人も見に来てくれたのに、喜ばせられなかった。いい試合をしていれば……。冷静になるほど悔しさが募る。でも翌日は朝から練習試合。前に進まなきゃと眠りにつく。


 目覚めると外は雪だった。「試合は無理じゃ……」とささやくチームメート。吹雪の中、真っ白いピッチでホイッスルが鳴る。でも、5分もすれば感覚は慣れてくる。「あそこでボールがはねるぞ」「こうやればドリブルもできるな」。もちろん“普通”のサッカーはできない。でも、僕も仲間も立派にサッカーをやっていた。


 優れた選手は、与えられた環境のもとで普通に自分のプレーができる。サッカーでは嵐も吹けば大雨も降る。でも、アスファルトの上だろうがぬかるみの上だろうが、うまい人間はどこでもうまいんだ。順応できる力、とでもいうのかな。


 先月、キャンプ地で会った育成世代の日本代表コーチはこんな話をしていた。「人工芝やいいグラウンドに慣れているのか、ピッチが少し荒れるとパスをつなげなくなる子がいてね。あれを本当の技術、といえるのかな」。22歳以下の日本代表が中東へ遠征したときも、デコボコのピッチに立つと日本でできたプレーが全くできなかったという。


 泥の中で遊んだ世代は僕らが最後なのかもしれないね。でも、世界には泥沼のピッチでサッカーをするプロがいる。「ブラジルには硬いピッチも軟らかいピッチもあり、芝生もはげている。そこで子どもはすり減ったスパイクで、おんぼろのボールを蹴る。いろんな状況を経験し、慣れている子は強いよね」。僕がそう話すと「カズ、若い日本代表にミーティングでそれを語ってくれよ」と頼まれてしまった。一選手ですし、丁重にお断りしました。


 欧州で活躍する南米の一流選手は母国への長距離移動と試合を休む間もなく繰り返す。それを見てヒデ(中田英寿氏)は言っていた。「彼ら、元気なんですよ。何食わぬ顔でそれをやるんです」。同じようにそれをやり続けたヒデも、やはり一流だった。


 いい選手はタフだ。環境の違いも直面した状況の厳しさもすべて楽しめる。試合に負けても切り替え、次へ挑むのも強さのかたち。そんなタフさが僕は好きだ。