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国立競技場はいろんなものを僕に呼び覚まさせてくれる。何度も通った会場への道。選手のバスが入り口近くの交差点で止まり、脇に目をやるとラーメン屋でユニホーム姿のファンが腹ごしらえしている。あのラーメン屋を越えると国立だ。僕も一度食べてみたいと思いつつ、20年来まだ実現していないのだけれども。
レトロなロッカールーム。何人の先輩が、同じようにここで着替えたことだろう。日韓戦、ワールドカップ(W杯)予選、あの悔しさ、あの喜び……。昨日のことのように頭をよぎる。
Jリーグ開幕当時は5万人近くであふれ、出入り口まで人がごった返した。いま横浜FCが国立で試合をしても、もうその面影はない。それでもあの場所には「リスペクト」という言葉にふさわしい何かが、今も変わらず横たわっている。
その聖地で僕は43歳7カ月にして再びゴールを決めた。久々にカズダンスのステップを刻む僕を、ベンチから飛び出したみんなが輪になって囲み、最後は一団で決めポーズ。打ち合わせなしなのに、示し合わせたような一体感で祝福し合えたのは、いつも先頭に立ってトレーニングする日ごろの僕をみんなが見てくれていたからかもしれない。
僕が国立で何度も踊っていたその昔、横浜FCの仲間はまだ小学生だった。20年の時を隔て、僕をまねていた子たちと僕が一緒に、国立でカズダンスを踊る。誰が想像できただろう?
当日は子どもがたくさん招待され、背番号11をつけた少年少女を多く見た。でも実際、彼らは「カズ」なんて知らない。親に無理やり連れてこられただけかもしれない。「カズはすごいんだぞ、日本サッカーを……」と聞かされながら。
幼いころ、来日したブラジルの名手リベリーノがエラシコ(同じ足の外側と内側を使って切り返すフェイント)を3回連発して日本人をかわすのを、この目で見た衝撃を覚えている。翌日は一日中そのまね。子どもは理屈よりも純粋な感動で心を動かされる。国立のカズダンス、あの至福のひとときが、見守った子どもたちにも何かを伝えていればと願うよ。
「もうダンスはよしなさいよ」との声もいただきました。貴重なご指摘を重く受け止めつつ、次もやりたいと思っています。